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大正8年以来、当社で製造された多くのプレスマシンの中に、東京藝術大学で版画用のエッチンググプレスとして活用されているものがあり、卒業制作に利用した方が画家として活躍している。そんな話を聞いたのが、当社といのうえさんとの出会いでした。
ホームページで作品を紹介させていただき、個展にうかがううちに、卒業以来利用する機会のなかった当社のプレスマシンを作品制作に利用していただくことを思いつきました。
版画製作で一般的に使用されるエッチングプレスは、原版と用紙を金属ローラーで端から徐々に押す方式。均質な圧力をかけるのがむずかしく、また、真鋳や銅製の原版は反り返り、木版や石版は破損の恐れもありました。そんな不安定さは、仕上がり作品の仕上がりにも影響を及ぼしていたといいます。作家のイマジネーションは無限でも、機械の性能で制約されてしまう。それは、日頃プレスマシンの精度アップを追求し続ける私たちには驚きでした。
今回使用したHDシリーズは手動式です。現在当社の主力製品は、電子制御され、より効率的な作業を行える電気式に変わっていますが、基本的なアーキテクチャは初期の製品から大きな変化はありません。HDシリーズは、その原点ともいえるマシンです。手動式なので、作者が直接微妙なタッチを加減でき、エッチングプレスとしても非常に高い能力を持っていることがわかりました。
作業者が必要とする微妙なタッチで、垂直で均質な力をかけること。携帯電話の基盤の型抜き作業などで、プレスマシンに要求される高い精度は、版画作家のデリケートな要求にも応えられる。
若い作家を応援したいという思いから実現した試みは、私たちにも大きな励みになりました。
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